大阪地方裁判所 平成11年(ワ)11004号 判決 2000年11月10日
第一事件原告
岩崎浩之
第一事件被告
富士火災海上保険株式会社
第二事件原告
岩崎浩之
第二事件被告
古本猛志
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 第一事件
被告富士火災は、原告に対し、金三九九万四〇六〇円及びこれに対する平成八年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第二事件
被告古本は、原告に対し、金三九九万四〇六〇円及びこれに対する平成八年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実等(証拠により認定した事実については証拠を掲記する。)
1(本件事故)(甲一、二の2、3、6ないし17、19ないし23)
(一) 日時 平成八年六月一一日午後一時一九分ころ
(二) 場所 大阪府吹田市山田東四丁目一五番一号先の交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車両 佐伯吉彦(以下「佐伯」という。)運転の普通乗用自動車(大阪八八せ八二〇〇)
(四) 被害車両 原告(昭和四七年三月一一日生、当時二四歳)運転の原動機付自転車(大―吹田市に五八)
(五) 態様 佐伯は、加害車両を運転中、速度超過を現認した白バイの警察官に追尾され、逃走中、本件交差点に後進で進入し、被害車両に追突して、これを転倒させたもの
2(原告の傷害)(甲二の5、弁論の全趣旨)
(一) 傷害
頭蓋骨骨折、脳挫傷
(二) 治療経過
入院二か月、通院一七か月
3(自家用自動車保険契約)
被告富士火災は、加害車両について、自家用自動車保険契約を締結していた。
4(損害填補)
自賠責保険 四八万六九二〇円
二 争点
1 被告古本の運行供用者責任
(一) 原告
(1) 被告古本は、加害車両の所有者であり(争いがない。)、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく責任がある。
(2) 被告富士火災は、加害車両の自賠責保険の保険会社でもあるが(争いがない。)、原告の被害者請求に対し、被告古本の運行供用者責任を認め、損害賠償金の支払をしており、被告古本は被告富士火災からの照会に対し損害賠償金の支払いについて異議をとどめなかったから、被告らが本件訴訟において被告古本の運行供用者責任がない旨主張することは、信義則に反し許されない。
(二) 被告ら
(1) 被告古本は子である古本竜志(以下「竜志」という。)に対し、加害車両の使用を許していたが、第三者に貸与することは禁止していた。
(2) 竜志は被告古本の指示に従い、他人に貸与したことは一度もなく、佐伯に渡したのが初めてであった。
(3) 竜志は、平成八年五月三一日午前七時三〇分ころ、佐伯から「今日の夜には返すからちょっと車を貸してくれや」等と言われ、暴力等を振るわれたり嫌がらせをされたりするのが怖かったこと等から加害車両を佐伯に引き渡した。
(4) 右のとおり佐伯は、無免許であるにもかかわらず、竜志から一日だけという約束で半ば強制的に加害車両を借り受けたものであるが、当時住む家もない状態であったことから、加害車両を当座の寝床代わりに借りるつもりであった。
(5) 竜志は、佐伯が加害車両を約束のとおり返してくれなかったことから、友人らとともに佐伯の住所等を訪ねて探したが、見つからなかった。
そこで竜志及び被告古本は、佐伯に加害車両を詐取されたと考え、平成八年六月一日、同月三日、豊中警察署に盗難届を出しに行ったが、一週間ほど待って加害車両が戻らなければ再度盗難届を出すようにとの指示を得ただけで、その日には受理されなかった。
そこで、指示のとおり同月一一日に被告古本らが再度盗難届を出しに豊中警察署に赴こうとしていたときに、吹田警察署から本件事故の発生を知らされた。
2 被告富士火災の責任
(一) 原告
(1) 加害車両の使用状況や購入資金、諸経費、公租公課を被告古本の子である竜志が負担していたから、被告古本は竜志に対し、目的、行先、現実の運転者を限定せず、加害車両の一切の管理を包括的に一任していたというべきであるから、竜志から他人への貸与についても包括的な承諾があったというべきであり、その竜志から加害車両の貸与を受けて使用し、本件事故を起こした佐伯は、自動車保険普通保険約款第二章(賠償責任)一条三項(被保険者の範囲)にいう「記名被保険者の承諾を得て自動車を使用中の者」に該当する。
(2) したがって、被告富士火災は、許諾被保険者の行為についての約款上の責任を免れない。
(二) 被告ら
佐伯は許諾被保険者ではない。
3 原告の損害
(一) 文書料・交通費等 二四万三一四五円
(二) 休業損害 九五万〇九一五円
休業一四三日間
(三) 入通院慰謝料 二〇二万円
入院二か月、通院一七か月
(四) 弁護士費用 七八万円
第三判断
一 争点1(被告古本の運行供用者責任)
証拠(甲二の19ないし21、23、乙一ないし三、被告古本本人)によれば、次の事実が認められる。
1 被告古本は、子である竜志に加害車両の使用を許し、竜志が専ら同車両を使用していた(購入資金、諸経費、公租公課等は竜志が負担していた。)。
2 竜志は、平成八年五月三一日午前七時三〇分ころ、竜志の自宅において、佐伯からその日のうちに返却するとして加害車両を貸してくれるよう頼まれ、親しい間柄ではなかったものの、断り切れず、加害車両を佐伯に引き渡した。
3 佐伯は、無免許であり、右のころから住居不定の状態にあり、竜志から加害車両を借り受けてそれを住居代わりにしようと考えており、当日返却する意思はなく、当面借りっぱなしにしようと考えていた。
これに対し、竜志は、佐伯が運転免許を有しており、約束のとおり当日返却してくれるものと考えて加害車両を引き渡した。
4 その日のうちに佐伯が加害車両を返却しなかったことから、竜志は、友人らとともに佐伯の住所等を訪ねて探したが、佐伯及び加害車両を見つけることはできず、竜志及び被告古本は、佐伯に加害車両を詐取されたと考えて、平成八年六月一日、豊中警察署に盗難届を出しに行ったが、応対した警察官は、返却される可能性もあるとして待つように言い、盗難届を受理しなかった。
5 被告古本は、平成八年六月三日、竜志とともに豊中警察署に赴き、盗難届を提出しようとしたが、応対した警察官は一週間ほど待って加害車両が戻らなければ再度盗難届を出すようにと指示をし、被告古本らは仕方なくその日の盗難届の提出はあきらめた。
6 佐伯は、加害車両で寝泊まりして生活しており、平成八年六月一一日本件事故を発生させた。
以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
右に認定した事実によれば、佐伯は返却する意思もないのに一日だけの借入を申し入れ、竜志は一日だけということで貸渡しを許したものであり、いわば竜志らは加害車両を騙取されたともいえ、また、佐伯は免許を有しておらず、かつ、住居不定で加害車両で寝泊まりしていたこと、被告古本らは加害車両を引き渡した翌日の平成八年六月一日及び同月三日には盗難届を提出しようとしており、佐伯の住所等を探して加害車両を取り戻そうともしていること(これらは被告古本らにとりとりうる唯一の手段といえる。)からして、加害車両に対する運行の支配、利益はすでに被告古本には存しないというほかない。
したがって、被告古本に本件事故に関する運行供用者責任を認めることはできない。
なお、被告富士火災が自賠責保険会社として、原告からの被害者請求に対し損害賠償額の支払をしたからといって、自賠責保険における支払と自家用自動車保険契約による支払とは別個のものであり、被告古本及び被告富士火災が被告古本の運行供用者責任を承認したものとして、本件訴訟においてこれを否認することが信義則により許されないというものではない。
二 争点2(被告富士火災の責任)
前記認定の事実からすると、佐伯は記名被保険者(被告古本)から包括的に管理を一任されている竜志の承諾を得て加害車両を使用していたものとはいえない。
三 よって、原告の請求はいずれも理由がない。
(裁判官 吉波佳希)